『月光のカルネヴァーレ』のルナリアルート、ロメオ団長エンドの二次創作SSです。
正確には、ロメオが「ルナリアを止める」を選択した後から、10年後のエピローグまでの間、その中間の時点の話という設定で描いています。
また、このSSには『月光のカルネヴァーレ』システムスクリプト担当の徒歩十分氏の製作後記絵に刺激されて書いている部分があります。
『月光のカルネヴァーレ』のネタバレを含みます。ご注意ください。
淡雪の降る街中を、ロメオの車が走る。運転する車は当然、ジェルマーノの物ではない。サーカスの売り上げで購入したものだ。ロメオは既にタクシードライバーを廃業している。
チルチェンセスの団長を始めてから、大陸中を渡り歩き、ジェルマーノと会う機会も減っていた。ルナリアたちのメンテナンスのために半年に一度会うぐらいだ。
ひとつの選択は、生活を一変させる。一抹の寂しさがロメオの胸に霞めた。その胸を満たすように、ロメオはタバコに火をつけ、煙を吸い込む。
多くの絆を失って、小さな絆を新たに育みながら、ロメオは今ここにいる。
そして、多くが変化し続けていく中にあって、それでも変わらないものもある。
「ねぇー、ロメオおじちゃん、まだ着かないの?」
後部座席で足をバタつかせながら、イリスが尋ねた。
「……今に着く」
タバコをくわえたまま、焦りを抑えてロメオが呟く。
ロメオは見覚えのある信号を右折。ここを右折するのは合っている筈なのだ。
「この交差点を右折するのは、これで三回目です」
同じく後部座席に座るペルラが告げる。
「わかってる」
ステアリングを荒くきりながら、ロメオが言った。
焦れば焦るほど道がわからなくなる。昨日の景色を必死に思い出しながら車を走らせ続ける。
なぜ焦るのかといえば、理由はひとつだ。
「……今、何時だ」
ロメオが口にしたその言葉に、ペルラが答えた。
「10時40分48秒。ルナリアとの約束の時間まであと20分少々です」
「――なっ、なに?」
ペルラの言葉に、ロメオは危うくタバコを口から落としそうになる。ルナリアとの約束を知られているとは思わなかった。不意打ちにロメオは絶句。そんなロメオをよそに、ペルラが続ける。
「正確には……今ちょうど19分前です」
ロメオは確認するように呟いた。
「……聞いてたのか」
「はい」
「……」
なんとなく気まずくなり、ロメオは黙ってしまった。
しかし、気落ちしている場合ではない。テントを出たのは10時前。ロメオは、歩いても30分で着く市場に行くために、40分以上も車を走らせ続けていることになる。距離的には、車であれば10分もかからないはずなのに、だ。このままでは間に合わない。
「くそっ」
毒ついてロメオはアクセルを踏み込む。その様子を見てペルラが言った。
「市場の場所を教えていただければ、私たちはここから歩いていきますが」
「送るといったからには絶対に送る!」
ほとんど意地になってロメオが叫ぶ。だが、
「しかし、このままでは待ち合わせに遅れてしまうのではありませんか?」
というペルラの指摘に、すぐに声も小さくなった。
「――っ。も、もともとあいつが一方的に言って出かけたんだ。知ったことか」
ロメオの言葉に今度はイリスが大声を出す。
「えーっ!ルナリアおねえちゃんがかわいそうだよー!」
ペルラが後に続く。
「仮に私がルナリアの立場であるならば、このような理由での遅刻には到底耐えかねますが」
「……耐えかねる、か」
「はい。耐え難い屈辱です」
車を走らせながら、ロメオは考える。ペルラがこれだけ感情を顕わにする事も珍しい。
生活を共にしているのだ。互いをもっと知るべきだろう。そして、そのためには歩み寄りが必要だ。
義務感と、それを上回る興味に誘われて、ロメオは尋ねた。
「……参考までに聞くが、耐えかねると、どうなる」
「むろん、それなりの返礼をさせていただきます」
ペルラの顔に不吉な笑みが浮かぶ。だが、運転にかかりきりのロメオは、それに気付かない。
「返礼?どんな」
と鸚鵡返しに聞き返してしまう。
「はい。まず最初にロメオ様を拘束、監禁します。次に錆びた切れ味の悪いナイフ用意します。手足の爪の間にそのナイフをねじ込み、生爪を一枚一枚、丁寧に剥がしていきます。悲鳴という名の音楽に耳を傾けながら滴る血液を摂取すると共に、その痛みを誘因として吐瀉物と排泄物を回収、それらを混合の上、鼻から――……」
「あー、もういい。その話はまた今度だ」
聞かなければ良かった。ロメオは即座に後悔した。好奇心は狼をも殺す。そんな諺すら頭に浮かぶ。
だというのにペルラは、
「また今度、ということは、ロメオ様はいつかはこのようなプレイをご所望でしょうか?」
ロメオの背筋に、悪寒が駆け抜ける。ここで曖昧な答えをすれば、近い将来、絶対に後悔することになるという、そんな予感。
「……訂正だ。金輪際、止めてくれ」
予感に従って、ロメオはきっぱりと言った。
だが、なおもペルラは食い下がり、
「ロメオ様なら、さぞ良い声で啼くことができると思うのですが」
薄く唇をしならせるその笑みが、ロメオの背筋を凍らせる。
「オレにそういう趣味はない!」
「……そうですか」
心底残念そうな声を出すな。ロメオは胸の奥で小さく呟いて左折。その先には市場が広がっていた。
「こ、ここだっ!」
ブレーキペダルを踏みつけ、車を止める。
「うわぁ!ロメオおじちゃん、危ないよ!」
急ブレーキに、イリスが驚きの声をあげる。
一方でペルラは少しも動じない。
「10時45分12秒。予定より少し早めの到着です」
「……どういう意味だ」
ロメオの言葉に、ペルラはまたもや笑みを浮かべる。
「言葉通りの意味ですが。はっきりと言わなければわかりませんか?」
「いや、いい」
諦めたように言って、ロメオは二人を降ろす。
帰りは歩くという二人を残し、再度車を走らせようとして――。
ひとつの店がロメオの視界に入った。
外には雪が、今も降り続けている。
思考は数秒。ロメオは車から降りると、その店に向かった。
店を出た時点で、約束の時間まで残り10分。迷わなければ、間に合わないことはない。
「上等だ。元タクシードライバーの底力を見せてやる」
誰に言うともなく宣言し、ロメオは車のエンジンをかけた。
それが30分前のこと。
結局、ロメオが公園に着いたのは11時を20分過ぎてからだった。
「世の中、出来ることと出来ないことがある」
自分に言い聞かせつつ、ロメオは公園を走る。雪の中、路上に薄く張る氷に滑らないよう注意しながら。待ち合わせスポットだという話は本当だったらしく、噴水はすぐに見つかった。
噴水の水を止められ、池には氷が張っている。その池を囲うレンガの上に、ルナリアは小さく座っていた。
うつむき加減の顔からは表情は読めない。
ロメオは近づいて話しかける。
「あー……待ったか?」
「……待ちました。嘘です。待ってません。ロメオさんなんて知りません」
ルナリアの冷たい声。が、その声も寒さに震えている。頬は外気にさらされ続け、赤らんでいた。
「……顔、寒そうだぞ」
ロメオの指摘にもルナリアは強い口調で言い放つ。
「気のせいです」
同時にスカートの裾を両手で握り締める。その手が、いや、よく見ればルナリアの全身が震えている。
「体、震えてるぞ」
その言葉にルナリアは身体をぴくりと一層震わせる。肩に薄く積もった雪が、ぱらりと落ちる。それでもルナリアは言う。
「目の錯覚です」
意固地な態度が面白い。自分が悪いことも忘れてロメオは決定的なひと言を口にした。
「雪、積もってるぞ」
一層顔をうつむかせ、震える声を抑えつつ、寒さと怒りと羞恥と安堵と、様々な感情をない交ぜに、頬を真っ赤にさせて、ルナリアが言った。
「お願いだから死んでください」
からかい半分の口調をあらためて、ロメオは謝る。
「悪かった」
微かに顔を上げて、ルナリアは答える。
「……罪は償ってもらいます」
「死ねばいいのか?」
「バカ言わないでください。そんなことをしたら地獄の果てまで追いかけて締め上げます」
パルカに手を伸ばすルナリア。ロメオは慌てて言う。
「わかった、わかった。で、なにをすればいい?」
ロメオの軽口に、ルナリアも常の調子を取り戻した。
考えるしぐさを数秒して、ルナリアが言う。
「そうですね。とりあえず、寒いので暖めてください」
「暖める?」
ロメオの疑問にルナリアは身を縮めて答える。
「はい。今、ここで、抱きしめてください」
「ぶっ!」
「嘘です」
ルナリアはあっさりと前言を撤回する。だが、
「あ、あのなぁ」
と、ロメオが言いかけたところで再度口を開き、
「代わりにキスを――」
「却下だ!却下!」
今度はロメオがルナリアの言葉を遮った。
「まだ最後まで言ってません」
「言わんでもわかる」
「
「断じて違う!」
ロメオの言葉にルナリアは溜息をつき、
「しかたありませんね。では初心に帰って、好きだって言ってください」
慌て戸惑うロメオを予期するルナリア。しかし、ロメオは答えない。
「……」
明後日の方角を向いて、タバコの煙を吐き出す。
「あれ、慣れちゃいましたか?面白くありませんね」
「……」
「ロメオさん?」
いつまでたっても無言のロメオに、ルナリアが問いかける。それでやっと、ロメオはルナリアのほうを向いた。重い唇を無理矢理開けるように、ゆっくりと口を開く。
「みっつ、おまえに言っておかなければならないことがある」
「えっ?」
ロメオのその表情は真剣そのもの。ルナリアは、身体が硬くなるのを意識する。ロメオの唇が、重い言葉を紡ぐ。
「ひとつ、オレは、お前のやったことは、今でもいいことだと思えない」
「っ……」
解かっていることだ。理解していることだ。そう思ってもルナリアの
「ふたつ、オレはアンナのことを忘れない。これからも、ずっとだ」
「はい。わかってます」
声がかすかに震える。ルナリアはやっとそれだけを口にすることが出来た。
身を引き裂かれるほどの、長い沈黙。
その果てにロメオは、
「だけど、だな」
そう言ってルナリアに近づく。両手をルナリアの肩に回す。ふわりとした毛糸の感触が、ルナリアの鼻をくすぐる。
その首に巻かれたのはマフラー。ロメオが先ほどの店で購入したものだ。
「えっ?あの、これは……」
突然のことに、慌てるルナリア。
そのルナリアの耳を、うって変わって狼狽したロメオの声が、震わせる。
「それでもオレは、お前の
そこに到って、ルナリアは気付く。ロメオの声が硬いのは、憤怒からではないと。
「……あの時言った言葉に、変わりはない。オレにはお前が必要だ。……ず、ずっと、側にいて欲しいと思っている」
「はい」
ルナリアの返事が、緊張にうわずる。
ルナリアはロメオの
主としてルナリアを縛る指輪は既になく、ロメオの指にはフェイクの指輪。それは、いつかの満月の夜、彼の指に填めた、あの指輪。
彼の側で役に立つ。死を迎えるその時まで、彼を縛る鎖となる。指輪の縛りに囚われず、自分の意思で、ロメオを幸せにする。それはアンナとも約束した、ルナリアの尊い誓い。ルナリアだけの宝物。
だからこそ、ルナリアは思う。
彼の側で仕えることは、無常の喜び。彼の役に立てれば、それでいい。彼も私を必要だと言ってくれた。それだけで十分だ。先ほどの願いは、ただの嘘で、今更、その気持ちを口にしてもらう意味などない。口にしてもらう必要もない。私にはその資格もない。今のままでも十分幸せだ。……十分幸せなのに。
「つまり、だ。みっつ。こ、こんなことを口にするのも、今更だと思うのだけれども――オ、オレは、その、おまえのことをだな、あ、あ――……」
なのに今、彼はなにを、言おうとしているのか。
ひときわ強く脈動する
長い沈黙の果て。
ロメオの口から出た言葉は。
「――あー……なんでもない」
「死にたいんですか?」
聞くだけで凍てつくかのような声は、ルナリアのもの。
「いや、その、だから、あれだ、わかるだろ?」
「わかりません。はっきりと言ってください」
ルナリアはロメオに詰め寄る。言われなくていいと思っていたとはいえ、ここまできて寸止めなど、納得できるはずがなかった。
ロメオはその言葉に気圧されながら、自棄になって口を開く。
「あー、くそっ、わかった、言ってやる、言ってやるとも!」
一度は言わなければならない。そう思っていたことだ。ルナリアの言葉に背を押され、あらためてロメオは決意する。
「つまり」
過去は今もロメオの胸のうちにある。ロメオはアンナを忘れない。ロメオはイルマを忘れない。
けれども。
アンナにイルマの代わりが出来ず、イルマにアンナの代わりが出来ないように、ルナリアも、誰の代わりにもなり得ない。
ルナリアはルナリアなのだ。
だから、代わりなどでなく―――――。
ロメオは、ルナリアを、見つめる。
「ぉ、お、オレは、おまえのことを」
雪の中にもかかわらず全身から噴出す汗を気にする余裕もなく、胸の鼓動を押さえつけ、ロメオはひと言、
「愛してる」
言い終わると同時、ルナリアがロメオの唇を塞いだ。このときばかりはロメオも抵抗しない。今だけは周囲の目を忘れる。二人の顔を、マフラーの毛糸がくすぐる。雪の中ずっと座っていたルナリアの唇は冷たくて、少し震えていた。
唇を離し、赤い頬に笑みを浮かべて、ルナリアは呟く。
「いいんですか?私、身勝手ですよ?」
「知ってる」
ぎゅむ。ロメオは太ももをつねられる。
「いッ!」
「そこは嘘でもいいので否定してください。でないと呪います」
「だから、嘘は苦手だ」
「だから、嘘でもいいと言ってるんです」
くだらない言い合いに、ロメオは頭をかく。
「自覚はあるんじゃないか」
ロメオの憎まれ口に、ルナリアは真剣な顔で言う。
「はい。私は身勝手です。だから、ロメオさんのために勝手に踊ります。料理だって、私はロメオさんの体のことなんて知りません。自分の作りたいように作ります」
「ああ」
ルナリアの言葉に、ロメオは肯いた。
アンナは、ロメオの健康のためだと言って、薄い味付けを変えようとしなかった。
高血圧は体の敵だと言い張るアンナの料理。それはアンナの優しさだった。
一方で、ルナリアの料理の味は、アンナに比べて濃い。ロメオの体のことについて配慮することはなく、彼女自身の言葉を借りれば、「身勝手に」作った料理。
けれど。
ルナリアは以前アンナの振りをしていたときも、料理の味付けだけは変えなかった。
ロメオを騙すためなら、ロメオが不平を漏らすような薄い味付けにすればいいのに、だ。
ルナリアが作るのは、どこまでもロメオの好みに合わせた料理。ロメオが旨いと感じる料理。だからきっと、ルナリアが自由に作るその料理は、ルナリアなりの、
それはアンナの真似をしても唯一変えなかった、彼女の証。
アンナの料理の代わりは、ルナリアの料理には出来ない。そして、ルナリアの料理の代わりも、アンナの料理にはできない。
旨い、という一言に、冷静な表情の奥で頬を震わせて喜ぶルナリアの顔を、ロメオは知っている。
だから、これまで伝えられないでいた言葉を、ロメオは口にする。
「それでもオレは、お前の料理も好きだ」
ロメオの言葉にルナリアは満足そうに、
「ようやく認めましたね」
と胸を張る。
「なんでそう自信たっぷりなんだ、おまえは」
「ロメオさんの好みはちゃんと把握してますから」
眩しいくらいの笑顔でルナリアが言った。
「……」
ロメオは気恥ずかしさに黙ってしまう。その手をルナリアが握り、
「さ、いきましょう」
そのまま手を引いて公園を歩き始める。ロメオとしても、その意見には賛成だった。今日一日、ルナリアに付き合うと決めた、ということもあるが、それ以上に、早くあの場から離れたかった。冷静になると、公衆の面前でキスをしたという事実で恥ずかしさが溢れてくるのだ。
しかしルナリアは、周囲を見渡していたかと思うと、すぐに足を止めてしまった。
「あ、ジェラテリアがありますよ。食べましょうか?」
ルナリアの視線の先には、確かにジェラテリアがあった。
「……この寒いのにジェラートを食べる奴がどこにいる?」
「私は熱いです。胸のシリンダが焼き切れそうなくらい。ロメオさんのせいですよ」
胸に両手を当て、ルナリアが言う。その頬が未だに赤いのは、寒いから、ではないらしい。
「知るか」
ロメオは吐き出すように言ってそっぽを向いた。
「あ、照れてますね」
からかうようなルナリアの声。痛いところを突かれてロメオは慌てて否定する。
「照れてない!大体、熱いならマフラーも必要ないだろ。ほら、返せ」
ルナリアに繋がれていないほうの手を、ルナリアに差し出す。だがルナリアはきっぱりと言った。
「不可能です」
「不可能?」
嫌でも、駄目でもなく、不可能。その言葉にロメオは訝かる。
「はい。ロメオさんのものをロメオさんに返すなんてできません。私はロメオさんの人形です。ロメオさんのためだけの。だから、このマフラーも私も、ロメオさんのものなんです」
「……」
言い切るルナリア。ロメオは二の句を次げない。そのロメオの様子にかまいもせず、ルナリアはジェラテリアへと歩いてゆく。ロメオの手を引きながら。
「すいません、クレーマひとつ」
「本当に食べるのか?」
ロメオは呆れて言う。ルナリアはロメオの言葉を黙殺しつつ代金を払い、コーンに乗ったクレーマのジェラートを受け取って、
「ロメオさんも食べます?」
「オレはいい」
「そういわずに、さあ、どうぞ」
ルナリアはジェラートを大きめに噛むと、その塊をロメオに差し出す。口で。それも店員や公園の観衆の目の前で。
「ばっ!なにを……!」
唐突に悪夢の再来。ロメオは呻く。ただのキスならまだしも、ジェラテリアの店頭でこんなこと出来るはずがない。
その間に、ルナリアの唇に挟まれたジェラートは小さくなり、形を崩していった。
「あ、溶けちゃいました。ロメオさんがグズグズしてるからですよ」
大して気にもしていない風に文句を言うルナリア。再びジェラートを銜えようとする。
「だから、なんで口を使う!」
「いまさら恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」
「そういう問題じゃない!スプーンはないのか?」
「ありません」
「くっ……ん?いや、待て。仮になくてもコーンのほうを差し出せばいいだろ」
名案だとばかりに言うが、
「愛の名の下に却下です」
ルナリアは断言。胸を反らせて得意げに言う。が、あまりにもきっぱりとしたその様子に呆れた結果、ロメオは逆に冷静になり、
「そんな愛は要らん」
「な、なんて言い草ですか!」
雪の降る公園を騒がせて、ロメオとルナリアは歩む。
ロメオは群れからはぐれた狼で、それでも今度は、逃げたのではない。ロメオはルナリアと共に生きることを選択し、その結果と向き合う決意をしたのだ。
だからロメオは、ルナリアと胸を張って歩いていける。ルナリアたちを幸せにすると、アンナに言うことができる。
互いを暖めあいながら、二人は歩む。
狼はひとりでは、生きられない。
人形もひとりでは、生きられない。
ロメオは狼。ルナリアに縛られる獣。
ルナリアは鎖。ロメオを縛する銀の糸。
ルナリアは
ロメオは人狼。ルナリアを躍らせる
終わりのない人形劇。狼は赤頭巾と出会い、赤頭巾と共に今日も踊る。
御伽噺は終焉を向かえ、それでも