PS2ソフト『あやかしびと―幻妖異聞録―』のソフマップ予約購入特典ドラマCD、「あやかし懺悔室」の二次創作SS、というか会話録です。
どのエンド後など明確に考えてはいませんが、強いて言えば、要領のいいようで悪い双七くんが全ルートを中途半端に通ってクリアしてそうな、そんな感じです。
『あやかしびと』『あやかしびと―幻妖異聞録―』『あやかし懺悔室』(注1)『妖説一物語』(注2)『テンプテーション・オブ・フレグランス』(注3)のネタばれを含みます。ご注意ください。
(注1)『あやかし懺悔室』はPS2版『あやかしびと−幻妖異聞録−』の、ソフマップ様での予約特典ドラマCDです。
(注2)『妖説一物語』はPC版『あやかしびと』の、ソフマップ様での予約特典ドラマCDです。
(注3)『テンプテーション・オブ・フレグランス』はpropeller様のお返しディスク『あやかしばん』のミニゲームで、propeller様ホームページよりダウンロード可能です。
ここは迷える子羊たちが集う聖なる部屋、あやかし懺悔室。
「迷える罪深き子羊よ、お入りなさい」
「失礼する」
「おや、子羊ではなく老牛でしたか」
「誰が老牛か!」
「気にしないでください。偉大なる神の前では、年齢など些細なことです」
「くっ、神にとっては些細でも、私にとっては大問題だというのに……」
「やはり気になりますか。良いのですよ。老いとは成熟でもあり、皆に平等に訪れるものなのです。人にはその月日の経過にあわせた生き方があります。罪があるとすれば、それは我が身を省みず若い燕を追いかけたこと。さあ、懺悔なさい。懺悔して、このさい如月双七のことは諦めてしまいましょう、ええ、もうすっぱりと」
「勝手に人の懺悔内容を決めるな!」
「違うのですか?」
「違うし、双七くんを諦める気もない!」
「ちっ。でー?今日はー、どのようなご用件でー?」
「いきなり投げやりだな。いや、だがまあ、双七くんがらみであることは間違いないのだが」
「ふむ。まずは詳しい話を窺いましょう」
「ああ。その、私は双七くんを、いや涼一くんを一度裏切った。とはいえ、この罪を今更、神に懺悔するつもりはない。一生背負っていくつもりだ」
「ほう、それで?」
「だが、せめて双七くんになにかしてあげたいと思っている。なのに彼は私のことを責めないどころか、そんな昔のことはどうでも良いと言うんだ。私が生きていてくれただけでいいと。幸せになって欲しいと。それでは私の気が治まらないのだが、正直、どうしたらいいか……」
「ほほぅ、なるほどなるほど、そうですか。まったく、あのお人よしは。……やはり一度教育してあげなければなりませんね。フッ」
「教育ってどんな?」
「それはもう、このPS2版では活躍できなかったロシア製のお薬で、いい感じにわたししか見えなくしてやるんですよ、ククククッ……」
「……って誰ですか!?」
「お約束のボケありがとう、狸娘。そう、わたしたちに水ぶっ掛けたと思ったら、今度はそんな抜け駆け企んでたわけね」
「このストーキング狐、いつの間に!」
「ねぇ、刀子先輩。これってどうなんでしょう」
「えっ、さくら!?」
「それはもう、怒っていいですよ。普段はお茶目かつフランクで通っている私も、思わずフランク・クラウザーばりのサブミッションを極めてしまいそうです」
「刀子先輩、ちょ、あ、痛、痛たたたたっ、極めてしまいそうって、もう極めてるじゃないですか、ロープ、ロープ、折れる、関節が!」
「まことに残念ですが、この異種格闘技戦にロープはございませんので」
「刀子先輩、ギブ、ギブですって!」
「あー、取り込み中のところを済まないのだが、私の相談はどうなったんだ?」
「そんなの決まってるじゃない。薫は、わたしと双七くんの召使として、身の回りの世話をすればいいのよ。あれよ、今流行のメイドってやつ」
「待て。双七くんはともかく、なんで私が如月すずの世話までしなければならんのだ?」
「薫ったら鈍いわねー。双七くんはわたしの恋人になるんだから、必然的にわたしの世話もすることになるに決まってるじゃない」
「なっ!」
「!?……ちょっとお待ちになってください、すずさん。それは聞き捨てなりません!」
(た、助かった……)
「ん?なんで薫じゃなくて刀子が聞き捨てならないのよ」
「なんでって、恋人とはどういうことですか!?飯塚さんがメイド云々はともかく、双七さんは駄目です!不可です!却下です!双七さんは、その……い、一乃谷神社に婿入り予定の身ですから!」
「婿って……な、なにいってんのよ!そんなの決まってないでしょ!」
「そうですよ。刀子先輩こそ、勝手に決めちゃ駄目ですよー」
「さすがさくら、いいこと言う!どんどん言っちゃて」
「はい!ですから、こういうことは双七さんの意思が重要だと思うんです」
「うんうん」
「だからですね、わたしにだって十分チャンスはあると思うんです」
「そうそう。さくらにも十分チャンスは――」
「――って、なによそれ!!」
「あわわ、つい本音が……」
「ふむ、総合するに、私が双七くんを射止めて幸せにしてあげればいいと」
「なにを勝手に結論を出して納得しているのですか飯塚さん!というかあなた、そもそも懺悔する気ないでしょう!」
「だから最初にそう言ったじゃないか。今更、神などに懺悔するつもりはない、と」
「神に対してなんたる傲慢。これが現代社会にやさぐれた大人って奴ですか。嘆かわしい」
「やさぐれてて悪かったな!大体、こんなマッチョでアニメシャツ着た神に祈るくらいなら、死神に首を差し出したほうがまだマシだ!……ともあれ、このままでは埒が明かないな」
「いっそのこと、本人に聞いてみますか。キキーモラ!」
「うわぁ!い、痛、トーニャ、キキーモラで引きずらないでくれ!ってあれ?みんなそろってこんなところで一体なにを……」
「如月くんいいところに来ましたね。さ、いい機会ですし、皆に宣言しちゃましょう――」
「――如月くんとわたしはラブラブなのだと」
「へっ?トーニャ、いきなりなにを……」
「双七くん、双七くんが一番好きなのはわたしよね!そうよね!ほら、さっさと言っちゃいなさい」
「え?いや、すず?」
「双七さん!私ですよね!入り婿ですよね!私、信じてますから!」
「あの、刀子さん?」
「双七くん。……キミは私を選んでくれるよな?」
「薫さんも!?」
『さあ、誰が好きか、白状しなさい!』
「うわぁ!なんか前にもこんなことがあったような!」
「みなさん、そんな尋問するようにしちゃ、双七さんがかわいそうですよ。少し落ち着いてください」
「さくらちゃん?」
「それじゃ、さくら、あなたは気にならないっていうの?」
「ええ。わたしは誰が双七さんの一番だろうといいんです」
「さくらちゃん、ありがとう。助かったよ」
「はい。これくらいなんでもありません。わたしも双七さんのことが好きですから」
「え?……ええぇっー!?」
「ですけど、わたしは誰が双七さんの一番だろうといいんです」
「さくらくん、まさか」
「ええ、そうです。双七さんが誰のことを一番に好きでも、わたしが双七さんのこと好きだってことに変わりはありませんから」
「むうっ、つまり二号でもいいと?ある意味一番の強敵ですね……」
「い、いや、いやいやいや、二号とかそういう気ないから、俺」
「だから、それでもいいんです。わたし」
「よ、よよよ、よくありません!」
「そ、そうよ!そんなの、その……とにかく、間違ってるわよ!」
「こればっかりは刀子先輩にもすずさんにも譲れません!」
「さくら、いつになく強気ね。これ、そこの妄想ぱっぱら狐。また”勇気を出せ”とか言霊憑かせたんじゃないでしょうね」
「誰がぱっぱらか!それに言霊なんて憑けてないわよ!」
「とすると、素でこれか。なんとも厄介な」
「ふん、厄介なことなどなにもないじゃないか」
「はぁ……今度は誰だ?」
「この声……まさか!」
「双七と対となるのは私だよ。なあ、双七?」
「逢難!?おまえどうして?」
「これは比較的設定にこだわらないドラマCDの、しかもその二次創作だぞ。そんなのもはや、なんでもありに決まってるじゃないか」
「そんなめちゃくちゃな……」
「まあ、そう言うな。どうだ、双七、私と共に歩む気はないか?歩むだろ?歩むよな?ほら、今なら猿たちの言うところの新婚旅行とやらをつけてやるぞ。行き先は宇宙だ」
「ちょっと!それ、打ち上げられたら最後、二度と帰って来れないでしょ!」
「まっ、まあ、それも一驚じゃないか、なっ」
「なっ、って『いっきょう』の漢字が違うだろう、漢字が」
「ちょっと待ちなさい、そこの狐の尻尾。よくよく考えてみればあなた、如月くんに惚れられたことないじゃありませんか」
「うぐ……」
「あうっ」
「さくらくん?」
「それにですね、私たちとしましても、横に表示される絵すら用意されていない相手に負けるわけにはまいりませんので」
「そ、それはだな、いわゆるひとつの大人の事情という奴でだな……」
「そうですよねー。所詮PC版でのあなたはヒロインでないどころか、性別すらあやふやな敵ですものねー。PC版公式サイトに使用可能な画像がなくて当然ですよねー」
「その分、PS2版のわたしはあやかしびと一のボディなんだ!」
「だがPS2版のみなのだろう。それでは設定上、大きなその胸も、魅力半減だな」
「え、ええいっ、いちいちうるさいぞ、このたわけ猿どもめ!双七、お前からもなんとか言え!」
「俺っ!?えっと、あのさ、みんな。こいつそんなに悪い奴じゃないんだ。だから、あんまりいじめないでやって欲しいなー…なん、て」
「双七くん!?そいつの肩持つっていうのっ!」
「双七さん!そんな妖の尾などにたぶらかされてはいけません!!」
「は、はい!」
「あっさり負けるな、双七ぃ!ああもう、こういう場合、唐突に現れた私が双七をかっさらってエンティング、という流じゃないのか!?」
「そのお約束はそこの年増女の時だけで十分です」
「だから、年増って言うな!……トーニャくん、君とは一度、ゆっくりと話し合わなければならないようだな。年上を敬う心というものをたっぷり刻んでやろうじゃないか、君のその、薄くて!平たい!胸板に!」
「ほぉー、銃を片手に話し合いですか。ええ、それはもう望むところです。たっぷりと後悔させてあげますよ!」
「あーあ、薫も陶器女もこれは止まらないわね。じゃ、わたしたちは帰ろっか、双七くん」
「いや、どう見ても帰れる雰囲気じゃないんだけど……」
「ちょっと、すずさん。なに勝手に双七さんを連れて帰ろうとしてるんですか!」
「そうだそうだ。帰りたいなら一人で帰れば良いじゃないか。いくら小娘とはいえ、一人じゃ帰れないー、なんてことはあるまい?」
「誰が小娘よ!」
「私から見れば、たかだか二百歳のお前など小娘同然だよ」
「キーッ!」
「双七さん、みなさんお忙しそうですし、わたしたちだけで帰りましょうよ」
『へっ?』
「いや、でもみんなを止めないと」
「今、双七さんが仲裁しようとしても、みなさんヒートアップして、よけいに収集つかなくなるだけですよ」
「う、そうかもしれないけどさ」
「あ、そうそう、ケーキのおいしいお店、見つけたんです。帰りに寄って行きませんか?」
「……そうしたいのは山々なんだけど、この騒ぎも俺が原因なわけだし」
「双七さん……わたしのこと、嫌いですか?」
「さ、さくら?」
「えっ!いや、そんなこと、そんなことない!」
「なっ、こら、双七……」
「だ、だったら……今だけでいいんです!PS2でも専用ルート作られなくて、生徒会女子のなかで一人だけ、どのルートでも恋人できなくて、『テンプテーション・オブ・フレグランス』でもオチを会長とすずさんに持っていかれて。それでもいいんです。いいですから、今だけは、わたしのことを見てください」
「さくらちゃん……うん、わかった」
「わかったって、双七くん!?」
「ありがとうございます、双七さん!じゃあ、さっそく行きましょう」
「ちょっ、さくら、双七くんを持って行っちゃダメー!」
「さくらちゃん、双七さん、止まりなさい!」
「ごめんみんな!俺、こんなさくらちゃんを放っておけないよおおぉぉ」
「如月くん、セリフまで『妖説一物語』の時と同じって、成長しないにも程がありますよ……このっ」
『待てー!』
シーン……。
「ふむ、仲良き事は美しき哉」
「そのまとめ方は無理があるぞ、さすがに」
このホームページでは、一部[propeller]製品の画像素材を加工・引用しています。
これらの素材を他へ転載することを禁じます。(C)WILL